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日々の破片

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2010-11-30

_ メタシネマ

突然、エットーレスコラのあんなに愛しあったのにを観たくなったのだが、なかなか観られないものだ。(実際にはレーザーディスクがあるので、劣化していなければ観られるとは思うのだが、時間を連続して確保するのは難しいよな)

あんなに愛しあったのにを僕は、有楽町のセゾン系のホテルの映画館で観た。

3人の男と1人の女を中心とした出会いと別れと再会の物語で、その中にイタリアの戦後史と、ほんの少しの映画史をからめていて、しかしその映画史の部分がまさに映画の中の映画となっている。フェリーニの甘い生活のロケ(の再現)。印象的な、時代が変わる瞬間の広場のタイルからどんどん上へ引いていくシーン。

3人の男の一人は野心に燃えていて実業界に入り込み、最後にはもっとも成功していて、しかし最も孤独な男だ。出世のために恋人を捨てて金持ちの娘と結婚し、しかしその金持ちの娘は彼が自分を愛していないことを直感で理解し、スクラップ置き場の自動車の山の中で昇天する(確か、すばらしく美しいシーンだった)。その彼がガウンを脱ぎ、自宅の広大な庭園の中のプールへ飛び込み、着水するまでの間に物語がすべて流れる(と思った)。このあたりの演出があざと過ぎるのだが、でもそういうテクニックと思えば、あるいは若気の至りっぽくもあり、不快ではない。もう一人の男はふつうの男で、確か、看護師ではなかったかな。ふつうに彼女を愛して、確か野心家に捨てられた彼女と暮らすはず。もう1人は映画を愛する男で、他の二人と同じく彼女に恋している。やっとのことで連れ出してデートでは、彼女にいかにエイゼンシュテインの戦艦ポチョムキンがすごい映画かを乳母車のシーンを再現して説明する。あまりのその説明のうまさに、再見してしまったくらいだ。

戦艦ポチョムキン【淀川長治解説映像付き】 [DVD](アレクサンドル・アントーノフ)

その後、テレビの映画クイズ番組に出演してどんどん勝ち進む。最後の質問「自転車泥棒でブルーノ少年が泣いたのはなぜでしょう?」に答えればお金持ちになれる。

自転車泥棒 [DVD] FRT-160(ジーノ・サルタマレンダ/ランベルト・マジョラーニ/リアネーラ・カレル/エンツォ・スタヨーラ)

彼は自信たっぷりに答える。「ヴィットリオ・デ・シーカが、 エンツォ・スタヨーラのポケットにタバコをこっそり入れておいて、『この不良め、お前はタバコを吸っているんだな』と頭ごなしに怒ったからだ。」

「残念でした! 正解は、父親が……」

彼はあわてて説明する。「いや、ヴィットリオ・デ・シーカはリアリズムを追求しているから、本当の涙を撮るために、エンツォ君に濡れ衣を着せて弁解をきかずに頭ごなしに叱ることで信頼を壊したんだよ。だから、泣いたんだ」

だが、彼の抗議も空しく、敗者となり1リラも手に入らない。

実におたくっぽい。

あんなに愛し合ったのにの作家はその後もメタシネマを撮っていたようだ。

スプレンドール [DVD](マルチェロ・マストロヤンニ)

(これは観たことがないが、観ればきっと素晴らしいのだろう)


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