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日々の破片

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2016-02-11

_ メトライブビューイングでビゼーの真珠採り

バーデンバーデンで一番好きなのはネトレプコやガランチャの歌ではなくて、バルガスとテジエの真珠採りで、とにかくメロディーの美しさとあるのだかないのだかわからないオーケストレーション(笛とハープだけ)にバリトンとテノールがからむこの美しさは他では見られない(テノールとバリトンといえば、ドンカルロスの友情行進曲のような名曲は他にもあるけど、とにかく真珠採りのターラタララララー(この部分)ラランの繊細な美しさは本当に素晴らしい。

で、とにかく真珠採り(日本と違って男の職業)の友情の物語ということは知っているのだが(だからテノールとバリトンが美しい歌を歌いあげるのだが、途中で一波乱あるのでそこもなんだかわからないのだが、そこをバリトンが抑えると掛け合いになってまたまとまって力強くまとまって、ウイ、セーラなんちゃらと続いて聴けば聴くほど見事なものだ)それ以外はまったくわからないまま放置していたのだが、ポレンザーニとクヴィエツェンでやるというので万難を排して観に行った。

メトでは100年ぶりで(その時はカルーソーが歌ったらしい)、おまけ映像でどうもダムラウが新しいレパートリーの開拓していてゲルブに持ち掛けたらしいということがわかった。

が、なんとなくビゼーだしマルセイユかさもなければどこか地中海かエーゲ海が舞台だろうと思っていたら、バラモン教がどうしたの、服やジャヴァ風だし、インドネシアかインドが舞台っぽい。ラ・バヤディールみたいなもので、当時ちょっとだけ流行ったのかな。

音楽は素晴らしいが、100年お蔵入りしたのもなんとなくわからないでもない作品だった。演出のペニーウールコックがこの作品の異常さをうまく視覚化していて感心した。

1幕。ノセダ。青い舞台に泡ぶくを吐きながら二人の真珠採りが海を潜っている。なんだろう? ビデオかな?(と思ったら、プロジェクションマッピングと吊りを使ったリアルタイムのバレエだと幕間のおまけ映像で知ってびっくりした)

村の総選挙。バリトンのズルガ(クヴィエツェン)が首長選挙だと言うと、村民ほぼ一致でズルガが選ばれる。おれにすべての権力をゆだねるのか? そうだそうだ。

そこにナディール(ポレンザーニ。ヒゲと入れ墨で精悍なイメージにしていて感心した)が帰って来る。放浪者ナディールが帰って来た! そうだ、おれは山の中で虎と戦い、豹を狩って暮らした、そして今、故郷へ戻って来た。明日からはきみたちと真珠を採る。でもきみたちの明日は昨日までのおれと同じかも知れない。(虎? と、ここで完全にエーゲ海も地中海も関係ないとわかった)

ズルガが近づく。良く帰って来た。おれは忘れた。君も忘れてくれたか。おれたちの友情だけが残ったのだ。ナディールが答える。おれは忘れない。君も忘れはしないだろう。遠い未来、太陽が沈むのを眺めていて思い出すだろう。あの門の前、神殿の前でおれたちは眺めていた。そこに美しい巫女があらわれた。あれこそ奇跡だ。あれこそ美だ。お前はおれの手を払いのけ、いや、それはお前だ。そうだ、おれたちはその瞬間に恋敵となったのだ。しかしそれは過去の物語に過ぎない。我らの友情は不滅だ。神よ照覧あれ。

こういう文脈の歌だったのか。

いや、それにしてもとにかく素晴らしい。まさに調和だ。身の毛が音の快感でよだつ。声だけでここまで感動させるのは難しい(しかもこれは映像のサウンドトラックに焼かれただけの音だ)が、この二人の歌手は実に素晴らしい。というか、バルガスとテジエよりバリトンが勝る分だけこちらのほうが遥かに素晴らしい。

が、いきなりここで二重唱が出ると、はてどういう物語となるのだ?

すると沖から小舟が近づいて来る。

巫女(ダムラウ)が神官に連れられてきたのだ。彼女はこれから毎日毎晩岩の上に立ち、海を潜る我らの安全のために祈り歌うのだ。たった一人で誰も近寄せることなく。われらはそのかわりに世界で最も美しい真珠を贈る。

(なんと残酷な)とナディールが独白する。

(は、彼だ)と巫女が独白する。

巫女は岩山にのぼり歌を歌う。そこに向かいの崖の上からナディールが歌いかける。僕は君を守るために帰って来たのだ。安心しなさい。

(幕間)

2幕。もう朝も近い。漁は終わった。お前は眠れと神官が言う。ここで一人で? それはちょっとおっかない。大丈夫。岩山は波を防ぎ、全面には武装軍団がお前を守る。

お前は誓いを守れるか?(なんか神官は歌いっぱなしなので、実は重要人物なんだな)

わたしは子供の頃、命をかけて誓いを守ったことがある。傷ついたジークムントが匿ってくれとやってきた。私は彼を匿し、フンディングの一族が刀をわたしに突きつけてもいっさい話さなかった。明け方、彼はわたしに首飾りを与えてくれた。そして誓いを守ったことを讃えて去って行った。

神官、納得して去る。

そこにナディール登場。おれはお前が好きだ。この気持ちわかってくれ。殺されるから帰りなさい。とか言いながら、次々とベールや上着や服を脱がし始める(すさまじく重ね着しているので問題なし)、やたらと直截的な演出だな。

ここの二重唱も悪くないが、と思う間もなく、ちょっと一線を越えるのはまずいからまた明日、と言ってベールを着けて別れた瞬間に神官がやってきて、不届き者、皆の衆であえであえ。ナディールも縛られて連れて来られる。

弦がアルベジオ。そうか、ノセダが言っていた波が荒れて来たところだな(ツナミはツナミだとノセダのインタビューで確認した)。

皆の衆がやって来てリンチが始まりそうなところにズルガ登場。ナディールを見て驚く。

おまえらおれに権力をくれたよな。殺せば良いというわけでもあるまい。追放だ。と物分かりが良い。

すると神官。追放ならベールを採れ。と言って脱がす。

あー彼女だ。このくそ野郎、ものども、やっぱり追放はなしだ。叩き殺そう! と怒りまくる。

ツナミがやってきた。すべてが波に飲み込まれる。

???

と思ったが、ここでおしまいではなく、長い場面転換となる。2幕2場か3幕かが始まる。

プロジェクションマッピングがスラム的な高層アパートの裏側を映す。はて? 波が一掃して世の中が変わったのか? と思う間もなく、事務所の中となり、扉にズルガの選挙ポスターがあり、壁には書類棚と書類がたくさん、ブラックジーンズにブラックTシャツのいかしたクヴィエツェンがうろうろしながら冷蔵庫からビールを出して飲んだり、煙草をふかしたりしながら、怒りにまかせて失敗した。良く良く考えてみれば、あそこまで怒ることはなかったし、やはり死刑はないよな。ごめんよ、ナディール、ごめんよ、レイラ(巫女の名前)。と歌い出す。はて、どういう演出なんだ?

そこにレイラが護送されてくる。このばかが閣下に申し上げることがあるそうです。

わかった、お役目ごくろう。二人だけにしてくれ。

レイラは元の巫女さんっぽい服装のままだ。

実はナディールはたまたま通りかかっただけで無実です。

おおそうか、だったら奴は無罪放免だな、良かった良かった(と独白)。

ところがレイラはズルガの心はわからない。神よ照覧あれ、われらの愛を守りください。わたしたちは愛し合っているのです。

愛とな? くそー、怒りがぶり返して来たぞ。何が無実だ嘘つき小僧。やはり許せん。

神よ、神よ、わらの愛をお守りください。

いやだよ。おれは今、嫉妬で狂っているんだからな。

と、チャンバラ調の二重唱。音楽は悪くないが、演出意図も台本も明らかに、ここではズルガはインドのバラモン信徒ではない(一切、神とも言わず、祈りもせず、単に自分の良心、自分の感情、自分の思考だけで動いている)。ズルガは自分の心だけを拠り所にすべての責任をもって生きている。近代人だ。いっぽう、レイラは異なる。

かくして決裂して、レイラは処刑場に連行される。そのとき、レイラは首飾りを取り出し、お付きの女性か親切にしてくれた牢番だかに与える。ズルガ、それを見て愕然とする(わかりやすい台本だ)。レイラが去った後、牢番から首飾りを受け取る。

場面転換。

神官が嬉しそうに、夜明けとともに裏切り者を処刑することを神に告げる。村人も大喜び。娯楽だ、処刑だ、死刑だ、娯楽だ。

ナディールがレイラをかばおうとする。二人いっしょに神に召されるのだ、こんなにうれしいことはない(アンドレアシェニエみたいだな)。

太陽の光だ、さあ殺せ。

そこにズルガ登場。待たれよ諸君、あれは日光ではない。悪魔の炎が落ちて来たのだ。村が燃えている。皆の衆、子供を助けに走れ、村へ。

村人消え去る。

ズルガ、二人の縛めをナイフで切る。

お前は忘れたかも知れないが、おれは忘れない。この首飾りを贈ったのはおれだ。今度はおれが命を救う番だ。

だからおれは君らを助けるために、村に火を点けた(きっぱり)。きみたちは逃げろ。

お、お前はどうなる?

知らん。神のみぞ知るだ。祈るポーズ。(1人で近代化を遂げたのだから、ここでの神も祈りのポーズも意味はないのだろう)

二人は逃げる。

おしまい。

こんな、話だったのか。

音楽は2幕までの美しさがとにかく素晴らしい。ズルガとレイラのちゃんばらは2流のヴェルディみたいでいただけないが、それも含めて3幕以降は急転直下だからまあいいかな。ズルガが一人で近代化するのも不自然(とは言え、オペラだし)だし、最後の落とし前のつけかたも無道過ぎるような。そういう意味では、お蔵入りされたのはわからなくもない。

が、すばらしい舞台作品になっている。ニューヨーカーはうらやましいと、はじめて思った。そのくらい、1幕の二重唱のできが素晴らしかった。

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