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日々の破片

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2017-06-21

_ 死と微笑

3月の木曜日に妹から電話があって、そろそろ父が危ないから明日は来た方が良いという。

もう長くはないからいてもしょうがない、どうしますか? と医者に聞かれて、家に帰っているのだ。

それで仕事を休んで、そろそろ行くかと思ったら、また妹から電話があって持ち直したから土曜でも良いとか言う。そうは言ってもどうせ仕事を休んだから行くよといって、妻と子供と出かける。

家に入ると、妹に酸素吸入器を付けたり外したりさせている父がベッドで寝ている。本人は酸素吸入器をつけるのがいやらしいのだが、なければろくに呼吸ができないのだからしょうがないのだが、どうしてもいやらしい。

もう、ほとんど食べも飲みもしていないから、とのことだけど、そもそも息もろくにしていないのだからしょうがない。

なだめながらマスクをしようとしている妹と場所を交代して枕元のほうへ進む。人の顔を見て何か言っているので挨拶する。しばらく何を言っているのかあれこれ尋ねてみるがなかなか当たらない。どうも来訪の礼を言っているような気がしないでもないが、良くわからない。

そのうち妻の名前を呼んだ気がするので、枕元を交代。

また交代してしばらく、何か言っているのでつきあう。そのうち、どうも子供の名前を呼んでいるような気がする。

もちろん来てるよ、と言って代わる。

子供が顔を近づけると、なんかすごくうれしそうに微笑んだ。すっかり死にかけていてもこんな良い顔をするんだなぁと少し驚く。

風邪をひいているとかで奥のほうで寝ていた母もやってきた。

家族揃い踏みだ。

苦しそうなので、呼吸器を回すと、もういらないと言っているようだ。

そうは言っても、苦しそうなので軽くのせておく。

子供は結構ひどい風邪をひいていて辛そうなので、そろそろ帰るよといって、さよならを言う。

意識はまだあるらしい。来てくれてありがとうのようなことを言ったような気がする。

顔を近づけて今までありがとうと言って、ずいぶん小さくなったような気がする頭を軽く抱えてみる。

やはりマスクはもういらないらしい。全員の顔を見て満足したのかな。微笑というのは微かなものなのだなとか考えながら、ずいぶんと穏やかな感じの顔を眺め、長いお別れをもう一度言った。

家に着いてしばらくして妹から電話があった。あれから30分後くらいに息を引き取ったとのことだ。

そういうことならもう少しいても良かったなと思ったが、子供の咳き込む音が聞こえるのと、全員が顔を見せた後の素晴らしい微笑みを思い出して、まあ、こんなものだろうとも思う。


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