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日々の破片

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2021-01-23

_ 新国立劇場のトスカ

もういまさらどうでも良い(とはいえプッチーニ作品なので大好きではある)トスカなのだが、作品そのものよりもコロナで無事来られるのかどうなるかドキドキものだったメーリが、しばらく前に来日して2週間の隔離中(様子見のほう)とかFBに情報を流していたので安心していたのだが、そうはいっても声を聴かなければ話にはならない。

これだよ、これ。若々しい(って感じるのだが、実際にはどういう意味だろう? 張りがあるということかな)良く通ってドーンと蒼天を射貫くような声。囁いていてもはっきり聴こえてそれでいて余計な震えがない声だ。

おれはこういうイタリア人のテノールを聴きたかったのだ。

妙なる調和がなんと妙なる調和なのだろう。

バーリ歌劇場来日公演のときの感動は間違いのないものだった。

こんなカヴァラドッシが初台で聴けるとは本当に幸福なことだ(全然性格が異なるがその意味ではフォークトを聴けたのと同じくらいの幸福度だ)。

ダニエレ・カッレガーリという人の指揮には特に感想はないが、メーリが歌い出すとテンポを相当落としているように感じた。いずれにしても出ている全員(日本人スタッフもいつものアンジェロッティやいつもの堂守だし)トスカなら目を瞑って一発勝負で演じられるような演目だからどこまでリハーサルをしたのかわからないが、聴かせるところは聴かせてくれる。(ただ、2幕のスカルピアが死んだあとあたりからは曲自体の退屈さが出て来てしまうのは、この演出を見慣れたからだろう)

トスカのキアーラ・イゾットンはやたらと重くてドラマティコなのかな? でおれがイメージするトスカの声とは違うのだが、悪くないというか、これはこれでありだな。メーリに声量でも負けてはいない。

スカルピアのダリオ・ソラーリは見た目と動きがこれぞスカルピアという感じ。ただもっと声が飛ぶと良いのになぁ。

2幕冒頭の変質者のクレドは、子供曰く好色漢のクレドか嗜虐者のクレドかの2択なら、明らかに後者のタイプだったとのことだが、おれも同感だった(とはいえ、前者のスカルピアって演出上ありなのか? という気はするけど、声や歌でならまああり得る)。

で、確かに2幕冒頭はクレドだし、そもそも1幕はスカルピアのテーマで嵐が来て序曲なしでいきなり始まるし、もしかしてプッチーニはトスカを大先輩のオテロを意識していたのかな? と(シナリオ上も、スカルピアにおれはハンカチではなく扇を使うのだと言明させているし)思わずにはいられない。すると柳の歌に対応するのは星は光りぬとなり、デズデモーナがカヴァラドッシになるけど、そもそもハンカチを与えられるのがオテロ(タイトルロール)で扇を示されるのがトスカ(タイトルロール)なのだからそりゃそうか。考えてみればカヴァラドッシの死は、トスカが騙されたとは言えパルミエーリ伯風銃殺を承諾したために招いたとも言えるから星は光りぬが柳の歌というのはちゃんと照合しているのだ。そしてオテロと同じくトスカも自ら死を選んで終わる。

雨ということもあってやたらと駐車場が混んでいた。


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