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日々の破片

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2010-09-15

_ レーニン

はるか100年近く前のことなので多くの人はすでに忘れたか元々知らないのだが、ロシア革命を主導したのは、科学者――少なくとも彼らはそう考えていた――たちであった。まだ、社会科学と自然科学にはっきりと境界線がなかった時代のことだ。

レーニンを例にとる。

彼はマルクスの論文を読み、思考実験を重ねる。

・マルクスによれば、労働者と資本家は対立関係にある。それを止揚するのは革命である。

・上の命題が真か否かを実験により確認しよう。実験というのは革命である。

・では、どのようにすれば革命ができるか?

・労働者は資本家と対立していて、現時点の主人が資本家であるのだから、革命の主体は労働者である。

・しかし、資本主義の原理により、労働者と直接対立関係にあるのは、次の2つである。

1. 他の労働者: 同じ労働市場において競合する

2. 国家: ストライキを打てば警官が来る。暴動を起こせば軍隊が来る。

・現実の問題として、労働者と資本家の対立は可視性を持たない。

・可視性があるのは、対労働者および対国家だけである。

・したがって、労働者が革命を起こす理由がない。労働者は競合関係にある以上、団結はできず、したがって力を持つこともない。

はたとレーニンは行き詰る。

そこで、いかにして労働者を革命に寄せることができるかのマニュアルを作った。

なにをなすべきか?―新訳 (国民文庫 (110))(レーニン/村田 陽一)

が、理論的に無理なものは無理だ。

・では、資本家は革命を起こすか? (と、一応考えてみる)

・資本家にとって労働者は、労働力の供給者であり、労働力なくして生産はできない。したがって、資本家が労働者と対立することはない。

・資本家にとって国家とは、労働者による破壊から資本を守る機構である。また他の競合関係にある資本家による不正を監視する装置である。したがって、資本家が国家と対立することはない。

まずい。これでは革命はできない。革命できなければマルクスの命題の真偽を確かめることもできない。

・では国家とは何か?

・国家とは暴力装置である。それ以上でもそれ以下でもない。

ああ、そうか! と、ここでレーニンはひらめいた。

国家と革命 (ちくま学芸文庫)(ヴラジーミル・イリイッチ レーニン/Vladimir Il’ich Lenin/角田 安正)

・国家が暴力装置という意味は具体的には軍隊と警察を意味する。それを構成しているのは労働者と農民である。

この事実により、不可視ではあるが資本家と労働者の対立による緊張が高まり臨界点に達すると国家の暴力のベクトルが逆転し得るのではないか?

レーニンは、この仮説について考える。

・その臨界点は過去に一度出現した。パリコンミューンである。

フランスの内乱 (岩波文庫)(マルクス/Karl Marx/木下 半治)

かくしてここまで考えたところで、国家と革命の執筆を中断する。ロシアにまさにその臨界点が出現しそうだと観察したからである。しかし、臨界点に達しても手をこまねいていれば再びそれは消失してしまうだろう。したがって急がなければならない(と、弾丸列車に乗り、亡命先のフィンランドを後にする)

革命はあっと言う間に完了する。

軍隊が自分を保護しないと理解したケレンスキーがさっさと亡命したからだ。

仮説通り、臨界点にある国家の暴力装置は反転した。

(その後に長い長い内戦やシベリア出兵のような火事場泥棒との戦争が始まるのだが)

未完のレーニン 〈力〉の思想を読む (講談社選書メチエ)(白井 聡)

というような、やたらと見渡しが良い解釈というか説明は、確かに新鮮だった。この見方にしたがうと、ボリシェビキの中で唯一学問を受けていない(神学校で聖書は学んだらしい)スターリンに権力が集中していく状況も解釈できそうにさえ思う。論理的に考えるボリシェビキたちと、理屈ではなく感覚で動くスターリン。また軍人たちがトロツキーを支持していたのも同じ理屈で説明できそうに思える。この時代の将校は、ナポレオンに代表されるのだろうが工学/数学(設営や砲術に代表される)と経営/数学(兵隊と兵站の管理)が必須科目だ。

・当然、資本主義国家でも、暴力装置の反転現象を観測していろいろ考えた。

・たとえばケインズの手法。緊張の高まりを抑制することで飽和点に達することがないようにする

・欧米の徴兵制度。思想的な徴兵忌避を権利として認める(飽和点になったとき結晶の核になりそうな要素を最初から排除)

・徴兵制度をやめて、すべて志願制度とする

・洗脳。

・国家に人格を付与する(宗教国家など)

反転現象は、ロシアのクーデターの時とか、ベルリンの壁崩壊とか、何度か見る機会があった。軍隊が国家の保護(反乱の鎮圧)を放棄する状態だ。(その伝でいくと、天安門事件では紅軍はきちんと国家を守った。したがって、あれはオウム事件などと同様に歴史的には一部の異常者による暴動ということになるのだろう)

それにしても、官僚は確かに資本家ではない(し、資本を持たない)。また、階級でもない(世襲はできない)。あのときの緊張は、何と何の対立によって生じていたのだろうか?

もう一つ、逆説的におもしろいなぁと敷衍して考えたのは、大きな国家の支持者は性悪説で、小さな国家の支持者は性善説だということ。性悪説なので暴力装置の反転をおそれて緊張抑制の施策が必要と考える。性善説なので暴力装置が反転することなどあり得ないと緊張をむしろ高めようとする。


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